闇しぐれ

3/8
372人が本棚に入れています
本棚に追加
/17ページ
 おしずを羽交い絞めたままの男が、再び襟元へ手を押し入れ、おしずの胸を攫った。  他の男たちが群がるようにおしずの脚を顕わにする。  「放して!!」  叫んだ声が、侵入してきた舌に掻き消され。  だめかと思ったその時。  おしずの耳を断末魔のごとき悲鳴が襲った。    瞠目したおしずの視界で、今しがたおしずに群がっていた男たちが次々と斃れてゆく。  あっという間だった。  キン、と音がして、顔をあげたおしずの前に、刀を納めこちらを見る男が居た。  「無事か」  「へえ。おおきに・・」  頭を下げたおしずの足元で、斃れ臥す男がうめいた。  「た、助けてくれ」  誰に言っているのか男が、救いを求めるように持ち上げた手を震わせている。  「骨が折れた程度だ。死にはしまい」  おしずの前に立つ男が吐くように言った。  「佐吉、一っ走りして番所に届けてこい」  「へい」  どこにいたのかと、おしずが驚いて見やる先で、佐吉と呼ばれた男が駆け去っていった。  「あの・・お礼を」  「構わぬ」  よく見れば、男はまだ若い。背の高いこの男をおしずが見上げたところへ、目の前に財布の束が突き出された。  「結構な仕事だな」  おしずは一瞬ぎくりとしたが、すぐに腹をくくると、つんと横を向いた。  悪いとは思っていない。     
/17ページ

最初のコメントを投稿しよう!