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おしずを羽交い絞めたままの男が、再び襟元へ手を押し入れ、おしずの胸を攫った。
他の男たちが群がるようにおしずの脚を顕わにする。
「放して!!」
叫んだ声が、侵入してきた舌に掻き消され。
だめかと思ったその時。
おしずの耳を断末魔のごとき悲鳴が襲った。
瞠目したおしずの視界で、今しがたおしずに群がっていた男たちが次々と斃れてゆく。
あっという間だった。
キン、と音がして、顔をあげたおしずの前に、刀を納めこちらを見る男が居た。
「無事か」
「へえ。おおきに・・」
頭を下げたおしずの足元で、斃れ臥す男がうめいた。
「た、助けてくれ」
誰に言っているのか男が、救いを求めるように持ち上げた手を震わせている。
「骨が折れた程度だ。死にはしまい」
おしずの前に立つ男が吐くように言った。
「佐吉、一っ走りして番所に届けてこい」
「へい」
どこにいたのかと、おしずが驚いて見やる先で、佐吉と呼ばれた男が駆け去っていった。
「あの・・お礼を」
「構わぬ」
よく見れば、男はまだ若い。背の高いこの男をおしずが見上げたところへ、目の前に財布の束が突き出された。
「結構な仕事だな」
おしずは一瞬ぎくりとしたが、すぐに腹をくくると、つんと横を向いた。
悪いとは思っていない。
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