闇しぐれ

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         可哀相な女だ、と。  蔑む想いではない、同情の想いで沖田は目の前を行く女を見やった。  だが、だからといって己が何をしてやれるだろう。  今の時代に、こういう女は山ほどいる。  己にできる事といえば、少しでも早くこの乱れた世を正す事即ち、公儀を援け、政り事を左右する京を護るべく叛乱分子を取り締まる事だ。  「うちは平気どす。もう結構どす」  ふと苛立だしげに女が振り返った。  勝気な女だ。あれだけ危険な目にあっておいて、泣いたりすることもない。  そういうすれからしなところが、沖田には好感がもてた。  「帰り道が同じだと言っているだろう」  「嘘言わんといて」  沖田は笑ってしまった。  怒った眼がこちらを向く。  「それとも何どす、善人ぶってうちを送ってくらはるふりして家ついたら、あん時の男どもみたいに、うちのこと襲う気やから名前も教えてくれへんの」  女は立ち止まって沖田をきりりと見上げてきた。  (ほう)  そういう受け取り方もあるのか。  「俺は沖田総司という。これでいいか」  女は目を見開いた。  「新選組・・・」  「そうだ。だから言ったんだ、これで役目がら、おまえの盗った財布を没収しなくてはならないな」     
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