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と、言うのはからかいである。
可哀相な女ひとり捕まえてみたところで、世が変わるわけではない。少なくても今回は目を瞑ってやる気でいる。
だが女は暫し黙りこむと、不意に財布を取り出した。
「持っていき!こんなん、いくらもまた盗れるわ。これ持ってとっとと去んで!」
財布の束を突き出して、こちらを睨みあげてくる。
沖田は感心してしまった。新選組沖田総司を前にこの態度は、気骨のある輩にさえ見られない。
いや、失うものは身ひとつという捨て鉢な強さが、女にこの態度をとらせ得るのかもしれない。
「残念だが、」
が、沖田も人が悪い。
「財布だけでは済まない、おまえごと召し捕る。まして次もまた盗みを働くと公言するようではな」
明らかに、女はうろたえたようだった。
「うちのこと、召し捕る言うの・・」
後ずさり、なお女は沖田を睨んだ。
「うち、あんさんのこと知らへんことにします。うちを家まで送って、うちのこと好きにしたらええわ」
「・・・」
沖田はさすがに呆気にとられた。
この女は、本気で言ってるのか。
召し捕られるよりも、沖田の素性を知らないまま家へ送られて勝手をされたほうがましだと。
「そこまで牢は嫌か」
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