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1.カミさんからの贈り物
うちのカミさんの母国・フランスでは、聖ヴァレンタインの日には、男女がお互いプレゼントを交換する。愛を賛美して。
俺は、パリジャンを気取り、毎年、赤い薔薇の花束を抱えて家に帰ることを習慣にしていた。愛するイザベルの優しい笑顔に会うために。
ところが、今年は、ドアを開けると、明らかに室内の様子が違っていた。冷え切った室内。灯りのついていないリビングルーム。オードブルかワインでも買いに行ってるのかなぁなんて、最初は気楽に構えていたが、どうも様子が違う。
食卓の上にポツンとリボンのかかった箱が置かれていて、チョコレートのプレゼントかなぁと思って開けてみると、そこには、なんと!
写真が数枚入っており、それに写ってるのは...
今にも抱擁しそうな男女。美里と俺の姿。
思わず息を飲んで、その場に立ち尽くす。
これは、参った。
いや、確かに、彼女とはちょっとあったよ、でも、それは、夫婦の愛に比べれば、ほんの些細なアヴァンチュールに過ぎない。理解しろって言ったって、無理かもしれないけど。男って、チャンスが来るとつい手を出しちゃうんだよ。本気じゃないし、相手だってちゃんと選んでやってる。略奪愛だなんて、馬鹿なことを考えるような、若い女は、初めから避けてるんだから。思いつめて、奥さんと私とどっちを選ぶのなんて、そんなことを言い出しそうな女は御免だから。
美里? そりゃいい女だけど、仕事もできるし、男に依存しないタイプなんだ。でも、男は好き。だから、俺を選んだんだよ。わかってくれないかなぁ。
たぶん、探偵事務所を雇ったんだろうけど、そこまでして証拠突き付けるくらいだから、イザベルも離婚する覚悟があるのかもしれない。
こんな時、エマがいてくれたら、と切に思う。バレエでロンドンに留学している一人娘だ。あいつなら、もしかしたら、ママを慰めて、俺を庇ってくれたかもしれない。
どうしよう、これから?
取り敢えず、エアコンのスイッチを入れて、コートを脱いで、そうそう薔薇の花も花瓶に入れてあげないといけないな。
着替えた後で、手を洗おうと、洗面所に行ったら、使おうとしていた透明ガラスの大き目の花瓶が、床に足の踏み場もないくらい粉々に散らばっていた。
うちのカミさんは、本気を出すと、ほんと恐ろしい。ナイフを振りかざさなかっただけ、まだマシだ。
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