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玲は、久しぶりの再会が嬉しかったらしく、スマホを取り出して、Instagram の写真を見せてくれた。どうやらライブの幕間やコンサートホールの楽屋で、他の女性歌手たちとワイワイガヤガヤしているのを撮るのが好きらしい。そんな写真ばかりだった。
数枚の写真の中で、ふと目に留まるものが一つあった。
「ちょっと待って。これ、誰?」
「あぁ、ミリィちゃん。シャンソン歌手の。」
俺は、ドギマギしていたが、できるだけ平静を装った。写っていたのは、紛れもなく美里だった。なんで? あいつ、外資系企業のOLのはず。
「よく一緒になるの?」
「たまーにね。彼女ねぇ、シャンソン・コンクールで優勝して、それでOL辞めて歌手になった娘。フランス語で歌ったりするの。」
「へぇ、そうなんだ。いろんな女性がいるもんっだね。」
そうするうちに、休憩時間は終わり、次のステージが始まり、玲は楽屋へ戻って行く。
俺は、美里のことを考えると、眩暈がして吐き気がした。
美里を「ミリィ」と読み替えているんだな、どうも。OLだなんて嘘つきやがって、いつもスーツ姿でいかにも会社帰りみたいにしていただけか。いや、ちょっと待て!それだけのことじゃ無さそうだな、どうやら、この話は。
フランス語、シャンソンコンクール、うん、どうもイザベルの匂いが漂ってくる。たしか歌手の友達がいたよな。あの男、何ていう名前だったっけ? 二度ほどパーティで会ったことがある。いつも日本の悪口ばかり言ってる、いけ好かない奴だった。本国じゃ無名で、日本人相手に金儲けさせてもらっているくせしやがって。えーっと、何だっけ?そうそう、ジュリアンだ!
俺は、ステージの途中で抜け出すのはイケないと思ったが、そうは言っていられなかった。蘭子ママにそっと近づいて、急用だと告げ、 静かにバーを出た。
まずは、近くにカフェを見つけて、スマホでシャンソンコンクールを検索すると、あった、あった、歴代優勝者に美里が出ていた。3年前か。OLじゃ無かったのか、畜生。
「落ち着け。」と俺は自分に言い聞かせた。陰謀の匂いがプンプンしているが、ここで焦っては元も子もない。そうだ、美里に電話してみるか。
「もしもし。」と俺。
「はい。美里。準さん?どうしたの?」とは、わざとらしい言い方だ。知っているんじゃないのか?
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