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3.彼女が一番望んでいること
翌日、俺は、若い頃歌舞伎町で知り合って、いろんな相談をしている富田を高田馬場の事務所に訪ねた。
昨日の写真のことと、美里とのラヴ・アフェアーについて説明すると、「なるほどね。」と言って、珈琲を一口啜る。「お前、どうも、嵌められたみたいだな。」と続ける。
「その美里って女、どこで知り合った?」と訊くので、「六本木のジギーっていうバーで声掛けた。」と答える。
「それで、イザベルさんは、そのバー知ってるのか?」
「ああ、場所もよく知ってる。金曜日の夜、一人でよく行ってることも。」
「ははん。お前、これからは、友達としてじゃなく、弁護士として話していいか?」
富田が急にマジな顔になるので、俺は身震いして、次の言葉を待った。
「これは、ハニートラップだな。その女って、どんな服装だった?」
「スーツ着てた。タイトスカートの。」
「それ、お前の趣味?」
「そうなんだよ。いかにも外資系のキャリアウーマンみたいな感じ。」
「そうか、それで、その趣味は、当然お前のカミさんも知ってるわけだ。」
「カミさん自身が独身時代、そういう感じだったからな。」
「罠にまんまと嵌ったってわけだ。」
「だって、お前、女が一人でバーのカウンター座ってるのって、待ち合わせか、男探してるか、どっちかしかないだろが。」
「お前ねぇ。若い頃みたいなこと言ってんじゃねぇよ。」
「うん。」
「それで、もう一つ訊くけど、お前、最近お金入った?」
「まぁね。去年、小説が売れたから、印税が。」
「それだ! その金が目当てだ。」と富田は、ぐっと目を剥いてこちらに迫るような勢いだ。
「で、お前んとこの家計はどうなってる?」
「夫婦で銀行口座は別々だけど。イザベルだって、化粧品の代理店経営してるんだから。結婚してから、ずっと別勘定。」
「あのな、夫婦間の所得格差って、離婚の原因になるんだよ。」
「そんなこと、考えもしなかった。」
「呑気な奴だな、お前は。小説が売れた時、ブルガリの時計でもあげてれば、こんなことにはならなかったかも。」
「そうか、そう言えば、最近、花束くらいしかあげたことがない。」
「イザベルさんの身辺を調べてみるけど、たぶん、金か男かなんかあるね。」
富田は、鼻筋を指でかきながら、そう言った。
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