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「・・・どうして届かへんかったのどす?」
おしずは訝しげに首をかしげた。
沖田は静かにおしずの目を見返した。
「物盗りに襲われたからだ」
「・・・え」
「息子の命がかかる大事な金を飛脚に任せるのは不安だと。彼の父親自らが懐にその金を携えて、急ぎ上京している時に、その金を奪われた。そして決められた七日の猶予のうちに金は間に合わず、その隊士は切腹した。追放で済んだところを、金が盗られたために、息子は命を落としたんだ」
「・・・・」
おしずは。沖田が何を伝えたかったか、はっきりと知って。
胸内を一瞬に走り抜けた苦しさに俯いた。
「裕福な者であろうと、金が無くなって困らないかどうかは他人には分からぬ」
「っ・・せやかて、うちやったら、五十両も入ってたら・・」
手にどれほどずしりとくる重さだろう。そんなものを掏ってしまったら、当然・・
「おまえは、」
沖田が代弁するように聞き返した。
「なら五十両の大金であれば、その者へ慌てて返しにいくか?」
「い、いきます」
おしずは胸をさす苦しさに、首を縦に振って即答していた。嘘ではない。本当に、それだけの金を手にしたら己は慄いて手放そうとするだろう。
「だがもし、」
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