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「お疲れ様、リカ」
「あ、ありがと、う……」
額にかいた汗を拭っていると、キサギがそっと私を支えてくれた。
当たり前だけど、ひとっ飛びでここまで来たキサギは一切汗なんかかいていない。
じとーっとキサギを見つめていると、そんな私の視線に気づいたキサギが苦笑しながら頭を撫でてきた。
「よく頑張ったじゃん」
「うん。成功の鍵はマンシュくん達のお父さんが教えてくれたんだ」
「そっか」
鞄をそっと撫でつつマンシュくんが私達のことを呼び、ゆっくりと葉で覆われた木の中央へと進む。
葉を掻き分けて行くと、木の幹に守られるようにそこで横たわる一人のゴブリンの少女がいた。
葉の隙間から零れる光を浴びながら、力なくその場に眠るその姿に下唇を思わず噛み締めた。
痩せ細った体に、明らかに顔色が悪く見るからに健康体とは言えない状況だった。
「お兄……ちゃん?」
「キナ!キナの病気を治す薬が出来たんだよ!」
そう言ってキナちゃんと呼ばれた少女は、私とキサギを交互に見てそっと微笑んだ。
ここでずっと一人、病気と戦ってきたキナちゃんは誰かに甘えることもなく頑張って生きてきたんだと思うとふいに涙が零れそうになった。
いや、ダメだこんな所で泣いてどうする!
自分に喝を入れて、ゆっくりキナちゃんの元へと近づき挨拶をする。
「初めまして。リカです」
「初めまして……私は、キナ」
「キナちゃん。あなたの病気を治すための薬を作って持ってきたよ」
「本当に、治る……の?」
「父さんがたどり着いた答えの薬なんだよ、キナ。だから絶対治る!」
マンシュくんが私の横で、キナちゃんの手を握りながらそう強く想いを伝えるとキナちゃんは嬉しそうに笑った。
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