本日、死にました。

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するとガチャリと扉が開く音がして横を見れば、物静かそうな女性が丸トレーで湯気を立たせた香りのいい紅茶を持ってきた。 綺麗にお辞儀をしてテーブルに紅茶を並べるその女性を見つめていると、耳が長く先が見事にとんがっている。 艶のある金色の髪は後ろで綺麗にお団子に結われ、見える首筋から白い肌が覗いていた。 まるでお人形さんのようなその女性に視線を注ぎすぎたのか、女性と目があった。 慌てて一つお辞儀をすると、優しい笑みを浮かべてアルベルトさんの横に立った。 「自慢の紅茶です。どうぞ味わってお飲みください」 ab06bf1e-1c73-41e0-9af1-3877fb19634b 可愛らしいその声に思わず一つだけはい、と返事をして紅茶に口を付けた。 優しい香りが口いっぱいに広がり、ようやく私にも心の余裕が生まれてきた。 「それで、その……お話を聞かせていただいてもよろしいでしょうか」 勇気を振り絞ってアルバルトさんにそう言うと、一つ頷いて真剣な目で私を見つめてきてその目に私の姿勢も自然と真っ直ぐに伸びた。 「ああ、もちろん。私はアルバルト。アルバルト・ロマインだ。どうぞよろしく。まずは、この世界……君の新しい人生を歩む世界についてお話しよう」 新しい世界……先程見たあのドラゴンやらこの部屋の絵画やらを見る限り本当に別世界にいるということは確かに分かる。 これがこの世界にとって、非現実的ではなく現実的になるということも。
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