本日、死にました。

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そのアルバルトさんの笑顔は不思議な力でもあるかのように、見ていると穏やかな気持ちになれる。 大丈夫です、と言いながら頷くとアルバルトさんは説明の続きを話し始める。 「簡単に言ってしまえば、今のリカさんは神が与えた魔力の結晶を持った身だ。魔力が存在しない世界ーーリカさんが暮らしていた世界に戻れば世界の均衡は崩れてしまう。そうならないためにも元の世界には戻すことはできないんだ」 「じゃあ、やっぱり転生して生まれ変わらなきゃいけないってことですか?」 「それが決まり……なんだがね」 アルバルトさんも紅茶を一口(すす)ってから、真っ直ぐな瞳で私を見つめた。 その視線にしゃんと背筋が勝手に伸びる。 「今までたくさん苦労してきた就職活動から解放されるというのに、それでも真っ直ぐに企業で、しかもチートスキルも不要で働きたいと口にしたのは君が初めてなんだ」 神様に向かって伝えた自分の要望に、今更ながら申し訳なさが滲む。 新しく始まる人生で、元の生活とは違うかもしれないけれど、それでも自分が描いた人生像を壊したくなかった。 でもその要望は、新しい世界では叶うことが難しい願い。 神様に悪いことをしてしまったと思いながら、俯くことしかできない。
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