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そんなやり取りを眺めていると、ヴェルギールさんに手招きされて机の前へと足を運ぶ。
「通行書の発行に、証明書……あとギルド会員の登録って所か。……今だから聞くが、リカは今の仕事辞めたいだとか思ってねぇか?」
「そんなことは思ってません」
「ならいい。その強い意志は簡単には曲げられなさそうだしな。じゃあ、早速やってくか」
机に置かれた1枚の紙と、楕円形の銅でできた何か。
それにヴェルギールさんが引き出しから出した銀色のインクとガラスペンがキラキラと輝き出した。
「主を示せ、その力を持ってここに証を刻め」
ヴェルギールさんがそう唱えると、机の上に幾何学的な紋様が光の線と共に浮かび上がった。
魔法というものなのは分かってはいるが、やはり非現実的すぎて瞬時に飲み込むのにはまだ無理がある。
感動や驚き、様々な感情が入り交じっていく。
しかし大丈夫だとでも言うように、キサギがちゃんと隣に居てくれた。
「じゃあ、そのペンを持って紙の下の署名欄に自分の名前を書いてくれ」
「はい」
自ら光を生み出すガラスペンをそっと手に取り、名前を書くために手を動かした。
だが、先程のやり取りを思い出し自分の名前をどう書いていいのか分からなくなる。
「あの、キサギ。この名前って普通に神崎 莉佳って書けばいいの?それとも、リカ カンザキ?」
「自分を示すものだ。今まで自分を示してきた神崎 莉佳でいい。魔法の力でその名を受け入れ、書き留めてくれるから」
そう言われて、ずっと書き続けてきた自分の名前を、いつもより緊張する状態で名前を書いた。
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