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「はっ、はっ、はっ、はっ…」 右足、左足、右足、左足… グラウンドをつま先で蹴り、かかとで着地する。 走っている間だけは、何も考えなくていい… 考えるな、大輝のことなんか。 4月の朝の風は、まだまだ冷たい。 けど、走っているうちにジャージの中の体温はどんどん上がっていく。肌寒かったはずなのに、長袖のジャージをもう脱いでしまいたい。 紺色の空の下の方から、わずかに光が射す。その光がだんだん広がって、オレンジ色へと変わっていく。夜明けの空がこんなに美しいなんて知らなかった。 俺は、小森 悠斗(ゆうと)。 栄進高校2年生。一応、県内では名の知れた進学校だ。 サッカー部所属。 大輝は、180センチ以上ある長身を生かし、1年生の時からすでに、バスケ部で何度か試合に出ていた。 雨の日、体育館の2階で筋トレしていると、バスケ部の練習が目に入る。大輝のレイアップシュートも、ドリブルも、パスも、無駄な動きがなく、美しかった。基本をしっかりと身につけているからこその動きだ。 この気持ちは、「憧れ」だと思っていた。 未だに158センチしかない身長、筋トレはしてるのになかなか筋肉のつかない貧相な身体、3年生が引退しないと試合のチャンスなんて回ってきそうにない…そんな俺だから。 俺は、大輝みたいになりたくて、だから大輝を見てしまうんだって、そう思ってた。
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