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「誰も彼女たちに声を掛けなければ、家に戻されるらしいよ。」 芙蓉は少しだけ悲し気にそう言った。 確かにここに来て、彼女たちには嫌がらせを沢山受けてきたが、誰かを思う気持ちは同じで、それに関しては嘘がないと思ったから。 「仕方ない事だけど、いざ目の当たりにすると、なんとも言えない気持ちね。  わたし達がどれだけ恵まれているのかって思い知らされるわね。」 木蓮の言葉に芙蓉はうん、と頷く。 そう、結局は誰かが誰かを選んだら、選ばれなかった人がこの世の中にはいるという事なのだ。どんな形であれ、好きになった人に好きになってもらえなければ、ずっと一方通行の想いでしかないのだから。 「二人とも知ってるかい?アルファの女性の中にはオメガに産まれたかった  なんてことを言っている人が居るって。」 真絹はソファにもたれながら、天を見ながら言う。 芙蓉も木蓮も真絹の言葉に理解できなかった、何でも手に入れる事のできるアルファ。思うままに事が進むアルファ、何をさせても簡単に出来てしまうアルファ。根底の資質が全く違う、人として飛びぬけている才能を持って生まれてきているのに・・・。 「結局、ないものねだりなんだよね。人って自分に持っていないものが、時々  とっても輝いて見えてしまうんだ。オメガの儚さなんて僕たちは一度だって  欲しがったことなんてないだろ?むしろその逆の事の方が多い。けれども  アルファの女性にしてみれば、守られて生きる事が宿命のような僕たちに  羨望すら感じてしまうんだよ。」 真絹の放った言葉の意味を理解すればするほど、重くてつらい。 何もできない底辺だとののしりながらも、きっとどこかでその状況を羨んでいたのか、と思えば、なるほど今までの行動の意味も投げかけられた言葉も納得できる。 自分達は女として常に努力し、磨いて来たというのに、自分達はオメガというだけで既に立っているステージが違っているのだ。 「それでも、可哀そうだけれども、確実にアルファの子供を生めるのは僕たち  オメガだけ。オメガを生めるのも僕たちオメガだけ。」 自分達に課せられたものの大きさを今一度理解すると、責任の大きさを感じざるを得ない。 優秀な血を残すための道具として扱われてきたことも、結局は希少価値のオメガだったからこそ。 「――けど、僕たちも人間だからね。イヤな事は嫌だし。他人に情が移るのも  仕方ない。僕はオメガに産まれて後悔はしてないけど、次は普通の人生を  望んでしまうよ。」 真絹がふわりと笑いながら言った。後悔はしていない、けれどもこんな重い運命を背負って生きなければならない息苦しさからは逃げたくなる。 「―――あぁ、シフォンケーキが食べたい・・・。」 真絹はそう言ってついにソファに寝そべってしまった。 真絹はどこかいつも自分達の斜め上を見ていて、理解し受け入れる。 納得はしていなくても、かみ砕ける人だ。 芙蓉はそんな真絹にあこがれを持っていた。この人が国母であったならきっと国民に慈愛がもっと広がっていただろうと思う。 「まきにい、股を開かないで。ちゃんと座って!」 木蓮に怒られている真絹を見ながら、このギャップの激しさが魅力だったのだろうなと思った。 「小野沢さん、一体どこに隠れているのかしらね。」 木蓮が唐突に聞きたくはないが、気になる名前を出す。 芙蓉も真絹も、動きが止まってしまう。 「見つからないって、明慶様が言ってた。けど、きっと就任式には来るって。  お互いにチャンスはその時しかないからって言ってた。」 未だに分からない小野沢の足取り。一体どれだけの人間を取り込んできたのか分からないが、別荘を全て探しても居ないのだ。 見えてきている人との繋がりも想像以上だったし、捕らえられた官僚たちも、小野沢の居場所を全て知っているわけではなかった。
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