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柳ヶ瀬は明日に迫った睡蓮訪問に向けて、最後のチェックを行っていた。
明慶は緊張のあまりまともにご飯も喉を通らない状態だった。
乏しい表情筋は更に硬さを増し、準備をしてくれている大臣たちも怯えてしまって
話にならない状態になっている。
「明慶様、いい加減落ち着いてください。これではまともに仕事もできません!
大体、何故あなたがそこまで緊張なさっているのですか?え?」
椅子に座っている明慶の右足は永遠小刻みに揺れており、今にこの城の床が
抜け落ちてしまうのではないかと心配になるほどだ。
「き、き、きっ、うぇっ、緊張、な、など、してっ、して、いないっ!」
―――今、吐きそうになってたじゃねーか。
柳ヶ瀬は心のなかで突っ込んだが、大人として側近として言葉には出さなかった。
情けない、そう思い柳ヶ瀬は睡蓮から渡されているオメガの個人プロフィールを
明慶の前に勢いよく並べた。
「ひっ!わっ!ま、まって!まってやーなーがーせーっ!!」
大げさなほどに椅子の上から逃げ出し、部屋の隅に移動してしまう明慶を見て
柳ヶ瀬は嫌味なほど大きなため息を吐いた。
「・・・根性なし。いいんですか?明慶様がずっと思ってらっしゃったあの
幼いオメガは今はもう18歳ですよ?もう、貴方の奥方になれるんです。」
明慶にはずっと片思いしているオメガがいた。まだ明慶が高校生ぐらいの頃だ。
将軍に連れられて、白拍子の舞を見学しにいったことがあった。
当時筆頭の白拍子はそれはそれは美しく、高貴な雰囲気を身に纏い将軍様の
お気に入りだった。
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