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 「芙蓉・・・。」  ポツリと漏れ出た愛おしい者の名前は、自分でも驚くほど切ない響きをしていた。  明慶は明日が来ることを複雑な心境で迎える。  「そもそも、こんなに急に予定を変更したのも、明慶様のせいですからね!   人馴れする事に時間がかかるからって、奥方に対する時間が十分欲しいって   急にそんな我儘言うからこんな事になったんですからね!」  自分の表情が異常に硬いという事を明慶本人もわかっているのだ  決して不機嫌などではない、緊張がピークに達すると、勝手に筋肉が固まってしまう  これから長い時間を共にいきる伴侶だ、最初から顔でストレスを与えるわけにいかない  そう思って、急ではあるが早めに睡蓮に出向きたいと、柳ヶ瀬に頼んだのだ。  「だ、だって、どうするんだよ!もし、通例通りにして相手が俺の側によるのも   イヤとか言ったら。血だのなんだの言ってられなくなるんだぞっ!」  この国のオメガはそんな事は言わない、分かっている。  小さい頃から果たさなければならない役目があると教え込まれてきている。  拒むことなどありえない、ましてや将軍に対してならなおさらだ。  けれども、明慶は無理強いしたくないのだ。オメガも人間、心を通わせて  温かい関係を築いたうえで、2人の遺伝子を残したいのだ。  「イモですね。全く、情けないったら・・・。明慶様の大好きな恋愛バイブル漫画は   全く役に立っていないんですね。」  明慶の寝室には沢山の本棚が並べられており、そこにはバイブルという名の  恋愛漫画、恋愛小説が所狭しと並べられていた。  常に勉強し、完璧な流れで相手を満足させたい、明慶の勤勉さが表れている。  「な、なに言ってんだ!お、おれはぁ・・・何度も何度も読み返しこの時の為に   備えてきたんだ、不真面目なお前たちとは違うんだ。」  「―――――The fact is stranger than fiction。」   (事実は小説より奇なり)     美しい発音の柳ヶ瀬の言葉に明慶は苦い顔をして答えた。
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