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時間は少なくとも互いが互いの香りで安心できる信頼関係はとても強い。 最初はぎこちなかった会話も、途切れ途切れでも続くようになってきた。 明慶は芙蓉が舞をする時どんな事を考えているのかとか、番関係には全く関りない質問をするように努めた。 芙蓉も先ほどから少しずつ酒を口に運ぶようになり、互いの空間も狭く親密な距離になっていった。 自分が職についたらこんな政策がしたいとか、全部ではないがポロポロと話もしていた。芙蓉が特に敏感な反応を示したのは、海外に対する自国のオメガの扱いについての事だった。 当然明慶は姉の事も調べていた、それ故にもう2度と同じことが起こらないようにと、この政策を盛り込んだ。 「――叶うなら、もっと早く明慶様に将軍になっていただきたかった。  無理な話ですし、今の将軍様もとても素晴らしい政策を行ってくださって  いるのはわかっています。けれど、もっと早くこの政策に取り組んでいただ  けていれば、失わなくてもよい命があったのに・・・。」 海外に娶られていったオメガのうち、今も元気に過ごしているのはほんの一握りだと聞く。 明慶は、自国のオメガを他国に移っても守りたいとずっと考えてきた。 「明慶様・・・ありがとうございます。僕たちオメガを大切にしてくださって  本当に感謝しています。」 大きな瞳に溢れんばかりの涙が溜まっていく。姉の事を思い出して、そしてこれからこの国を守っていってくれるこの男が自分達オメガを大切に思ってくれている事に、芙蓉は感謝してもしきれなかった。 明慶の太くてゴツゴツとした指が芙蓉の流れ出た涙をスッとぬぐう。 その指の動きに目を閉じ頬を預ける様にして、感触を味わい視線を上げると 愛おしそうに自分を見る明慶の顔があった。 段々と距離が縮まり、鼻が触れるまでになる。 芙蓉はゆっくりと目を閉じ、明慶の唇が重なってくるのを待った。
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