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明慶は固まってしまっている。ほんの数分前まで自分達はいい感じだったのだ
可愛い、可愛い芙蓉が自分の腕の中で、白い肌にパッと挿すような朱が頬に広がり、トロリと蕩ける様な眼差しで自分を見ていたのだ。
いくら明慶シアターアイズが多少狂っていたとしても、蕩けていたのだ。
―――なのに・・・今自分の腕の中にいる愛おしい人は震えて、美しい瞳には真珠の様な涙を浮かべているではないか。
俺は一体何をしてしまったんだ!?明慶はパニックに陥ってしまった。
手順としては間違っていないはずなのだ、ちゃんとゆっくりと抱擁から始めてキスをしたのだ。教えてもらった通りに事を進めたはずなのだ。
もしかしたら、自分のがっついた顔に怯えてしまったのか?聞きたいけど聞けないし、もし、はいそうです。なんて言われたら、今後一切、俺の分身はおっきしてくれなくなってしまうだろう。
2人は暫くそのままで見つめ合っていた、時間は無情にもゆっくりすすむ。
グスン、グスンと、鼻を啜る芙蓉はまた可愛らしくて明慶はその様子ですら自分の目に刻む。
「あ、明慶様・・・。あの、実は・・・ぼ、僕、あのっ・・・。」
スンスンと鼻を啜りながら、たどたどしく話し出す芙蓉。
本来ならここで先に優しい言葉をかけ、相手を安心させてやるのが紳士のはずなのだが、そうバイブルにも書いてあったのだが・・・
明慶は出来ない子だった。
「んどっ、んどぉっ、どどっ、どうした?」
しかも急に上手に話せなくなってしまうほど、ショックを受けていた。
ここでニッコリ微笑まなければ余計に怖がらせてしまう、そう思い、自分なりのニッコリを演出してみる。
芙蓉はびくっと肩を揺らして、より一層泣きそうな顔になってしまった。
つまり、また失敗したのだ。
「も、申し訳ございませんっ!ぼ、僕初めてで、お床の勉強はしたのですが
急に怖くなってしまって、気分を害されてしまいましたよね?どうか、
お許しくださいませっ!」
ガバッと起き上がった芙蓉は、また頭を床に付ける様にして詫びを入れてきた
明慶は芙蓉の姿を見て、この大きくて深い溝をなんとかしたいと思った。
夫婦になるのだ、部下でもない、自分のパートナーにこんな風に謝られたくはない、イヤなら嫌でいい、怖いなら怖いと言って欲しい。
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