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「大丈夫だから。むしろ君の事を考えてやれなかった俺が悪い、申し訳ない
気持ちが先走ってしまったみたいだ、許して欲しい。」
明慶は芙蓉に、こうやって普通に会話して欲しいと気持ちを込めて謝った。
簡単には埋まらない距離だという事は分かっている、それでもミリ単位でもいいから歩み寄って、寄り添っていきたい。
「と、とんでもございません。どんな処分も受ける覚悟でございます。
時代が変わっても貴方様は将軍様になられるお方、全て僕が悪いんです。」
あぁ、どうしてこうも上手く行かないんだろう。やっと触れられる距離にまで近づけたというのに、君が俺の運命だというのに・・・。
埋まらない空間に互いがヤキモキしてることは、互いがわかっていた。
近づきたいのに、近づけない。
明慶は自分の腕の中に彼を閉じ込め綺麗なダークシルバーグリーンの髪を撫で続ける、そして芙蓉は抱きしめられた広く大きな胸の中でただ彼から漂う甘い香りに酔い続けた。
時代が移り変わってもなくならないものはある、江戸城の内装は時代に合ったものに変わったが、”奥”はなくなってはいない。
いくら明慶が側室をとるつもりはないと言っていても、勝手に送り込んでくる権力の亡者はそこそこいるのだ。
純粋に真っすぐに、自分の思う事を素直にやってきた芙蓉に、あの何とも言えない空間が耐えられるのだろうか・・・。
自分の寝室の側に、正妻専用の寝室もあるのだが、そこに入ったとしても安全とは言い切れない。
大臣たちの娘や、国外からの送られてくる娘たち、そのほとんどがアルファ、稀にベータもいるが、権力に対する闘争本能は恐ろしいものだ。
明慶とて、知らない訳ではない。自分の母親がその渦に巻き込まれて幾度となく涙していた姿をよく覚えている。
遠い昔の話をするならば、暗殺なんて言うのもあったのだ。
心底惚れた者を守るためにどうすればいいのか、やはりお互いがもっと親密にならなければ小さなことも気づいてやれない。
明慶は頭の中でグルグルとこれからの事を考えていた、芙蓉のおでこにキスを落とそうと、彼をみたら、頬に涙の筋を残したまま眠りについていた。
余りにも無邪気なその寝顔に明慶は触れるだけのキスをおでこに落とし、自分も彼を抱きしめたまま布団へと転がった。
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