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支度を済ませ、明慶、芙蓉、柳ヶ瀬の順で広間に遅めの昼食を取りに行く。 本来なら、お客様の準備をしていたはずだったのだが芙蓉はもうそれをする事はない。 睡蓮に来ているアルファの番になるということは、睡蓮の住人ではなくなるという事だ。つまり、客人扱いとなる。 昨日まで一緒に準備したり、他のお客様のお世話をしてきたオメガ達に今度は自分がもてなされるということだ。 芙蓉は少なからず動揺していた、寂しいという感情もあるし、やはりみんな次期将軍の妻にはなりたいと思うのであろう。 どうしたって嫉妬の視線を感じてしまうのだ、仕方ないとはいえ、辛い。 ホントの所は、身体のつながりも、番の証もまだないのだが明慶が側室を持たないときっぱり通達している以上、ここから他のオメガが選ばれることはない 昨日あれだけお願いしたにも関わらず、頑として首を縦に振る事はなかった。 しかも今回の睡蓮訪問で、花の名を与えられている2人いっぺんにいなくなってしまうのだ。 これからまた、”花”の争奪戦が始まるのだと思うと、胸が痛む。 ”花”になってしまえば他のオメガは下手に手を出せなくなってしまう。 選ばれたオメガなのだから当然扱いにも多少の格差が出てきてしまう。 呼ばれるアルファの階級も、使ってもらえるお金も、望まなくても向こうからすり寄って来るのが”花”なのだ。 故に、この争奪戦は本当に醜い戦いの連続なのだ。 木蓮も芙蓉も幼い頃から秀でていたため、争奪戦も何も比べる者がいなかった為、さほどの事は起こらなかった。 それでも、さほどの事だ。 花の名が与えられる前の候補だったころは、木蓮と芙蓉が沐浴をしていると 決まって2人の服はズタズタに切り裂かれ、使っている化粧品が盗まれる、 部屋に誰かが侵入した跡もあり、ひどいときには肌が荒れてしまうようにと化粧水の中に相当薄めた硫酸が混入していたこともあった。 思い出すだけで眉間に皺が寄ってしまう。 なので、木蓮とよくお互いの持ち物の検査をして、なんとか無傷でやり過ごしてきたのだった。
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