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「も、木蓮?何言ってるの?呼び方もおかしいよ、どうしたの?」 いつもの木蓮とは違う雰囲気に戸惑ってしまう芙蓉。 彼はまだ理解しきれていないのだろうが、明慶の妻になるという事は大きく言ってしまえば、国民の母になるようなものだ。 今までの様に、同じ目線で話をすることは出来ない。無論、プライベート空間でなら芙蓉本人が望んだなら砕けた話も出来る。 自分はいつでも線引きできると、木蓮は芙蓉に示したかったのだ。 守るべき主であり、良き友でもあると・・・。 「いいえ、芙蓉様。私は柳ヶ瀬の妻になりました、そして貴方は次期将軍  明慶様の奥方様。みなまで言わずともお分かりになりますでしょう。」 わかっている、木蓮が言いたい事なんて、ちゃんとわかっているのだ。 だけど、急にそんな態度になってしまうなんて、芙蓉はとても寂しかった。 「い、今は僕たちのほか誰もいません。明慶様、どうかお許しください。  こんな急にじゃ、僕、寂しいです。まきにいも、お願い!今は誰もいない  からっ!今まで通りにしてください。」 明慶は自分の配慮の足らなさに情けなくなってしまった。 芙蓉の姿を見て、どうしてこんなこともわかってやれなかったのだろうと。 考えなくてもわかる事だ、突然自分が現れて、妻にすると言って、生活が一変してしまうのだ。どんなに色んな重鎮や、外賓と接してはいてもここから出て行かなくてはならない事はなかった。 接待中は凛としていても、終われば気の合う友と笑い話でもして疲れを癒していたのだろう。 彼にとってはその時間はかけがえのないモノだったのかもしれない。 そんな大切な時間も、場所も奪ってしまうのだから、せめて気心の知れた仲間内ではいつも通り接して欲しいと願うに決まっている。 「芙蓉、すまない。俺はまだまだ君の事がわかってない。許してくれ。  そうだな、ここには俺の友と、君の友しかいないんだから気を遣うのは  やめて欲しいな。うん。」 明慶の言葉に芙蓉は、ぱぁっと大輪の花を咲かせたような笑顔で応える。 無邪気に笑うその顔に、明慶はまたもや心をうばわれてしまう。
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