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途端、並んでいたオメガ達が騒めく。当然だ、滅多に会う事の出来ない存在である男。しかも極上のいい男で、アルファの頂点。 いくら表情が怖くても、持っている肩書が違い過ぎる。 どうせ誰かと番わなければならないなら、力のある方がいいと考えるオメガだって少なくはない。 純粋に好きな人と幸せに歩んでいきたいなんて事を考えてる人間は少ない。 「はっ、初めまして、明慶様、わたくしは・・・」 今ここで名と顔を覚えてもらい、あわよくば側室に!と思うオメガが我先にと明慶の元へと跪き、自己紹介を始めようとする。 真絹はその様子を悲し気な目で見ている。 小さい頃から教育されてきた事が、一瞬にして飛んでしまうなんて、一体なにを学んできたのだろう、と。 決して自分を売り込むようなことはしてはいけないと、昔から教えられてきたはずなのだ。 権力によってオメガという性がおもちゃにされないために徹底して教え込まれてきた事。 真絹の目に涙がじわりと溢れてきた、自分はここをまとめるにふさわしくないのかも知れないとすら思えてきた。 「――――静まりなさいっ!あなた達、場をわきまえなさい!礼を欠くような  ことはしてはならないと、教わらなかったのですかっ!!」 混乱した広場いっぱいに響く凛とした声。 聞き覚えのある声だが、まさかこんなに厳しい声で話すとは思わなかった。 芙蓉は声の主に視線を向けると、そこには小さな手を力いっぱい握りしめ、 怒りで震えながらオメガ達の醜態を叱責する木蓮の姿があった。 本来ならここで注意をするなら、それは芙蓉の役目だったろう。 所が、彼はあまりにも驚いてしまい、声にならなかったのだ 皆がこんなにも彼を求めているだなんて、思いもしなかった。 どんな方であっても型が合致してしまったら受け入れる、としか考えていない芙蓉には、こんなにも必死になって自分をアピールするなんてことは微塵も考えたことがなかったし、学校でも教わらなかった。 そもそも、オメガに産まれてしまったからには運命は受け入れるものであって掴み取るものではない、そう考えている。 だから明慶と型が合致したと言われた時も、運命として受け入れただけで、特別彼の奥さんになりたい!などとは思わなかった。 むしろ、お互いにそういう形として捉えているのだろうから側室は迎えるべきだと進言したのだ。 子供を産むことを拒んでいるのではない、むしろ子供は産もうと思っている。 ただまだしっかりとした発情期が訪れてくれないだけで、その気がないことはない。自分は後継ぎを産むための存在でいい。 でもせめて同じ奥には、彼が本当に大切にしたいと思える人が居たほうがいいと思うから・・・だから側室は迎えた方がいい。
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