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木蓮は睡蓮に居るオメガ達を叱責した後、チラリと芙蓉を見ていた。
なんの感情もない表情、自分の夫がこんなにも求められ、焦る場面のはずなのに、彼は一切なにも思っていない。
彼女は分かっていた、芙蓉がただぼーっとその様子を風景の様にして見ていられる理由が。
芙蓉は相手に何も期待していない、運命ならば受け入れ、違うなら抗う。
ただ単純にこの2つを繰り返しているだけなのだと・・・。
芙蓉の姉の事は当然木蓮も知っている、姉とも本当の姉妹の様に仲が良かった
だから、あんな結果になってしまって木蓮自身もショックだった。
芙蓉はあれ以来何物にも期待しない、望まない、求めたりしない。
どれだけ言っても、全て諦めたような顔で、ふんわりと笑うだけになってしまった。
明慶がどれほど彼の事を求めているかなんて、見ていればすぐにわかる。
夫の柳ヶ瀬も明慶の長年の片思いを美談とはいいがたい話で語ってくれた。
もし、自分にその好意を向けられていたとするなら、ちょっと・・・イヤ、
ドン引きするほどの熱量だ。絶対に嫌だと思ったほどだ。
けれど、芙蓉にはあれぐらいの熱量がなければだめなのかも知れない
彼は心をどこかに捨ててしまったから。
自分が側に居て、幸せってものがどんなにすばらしい事なのかを教えたい。
明慶がどれほど芙蓉に想いを寄せているのかを分からせたい。
故に、柳ヶ瀬から奥に入り芙蓉の世話役になって欲しいと言われた時、2つ返事で了承したのだ。
自分にしかわかってあげられないであろう芙蓉の欠けた心の部分を、どうにかして取り戻したい。
芙蓉がオメガの皆に頭を下げた時、一際キツイ視線を送った相手も確認している、あの目は危険だ。
芙蓉が明慶様の正妻になる事が許せないんだろう、嫉妬で一杯の目だった。
「木蓮、落ち着いてください。」
夫の柳ヶ瀬がこんな緊急事態だというのに、ニッコニコしながら近寄って来た木蓮は、こんな時にこんな笑顔でいられる夫を見て、思いっきり視線で八つ当たりをしてやった。
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