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芙蓉は明慶と竜聖のやり取りを見てオロオロするだけだった。
確かについさっきまで、明慶から甘く誘う様な妖艶な香りが漂ってきたのだ。
明らかに、自分に対して性を意識させる香りだった。
「お前なー、ほんっとそういうところデリカシーないんだよな!」
「ち、ちがっ!・・・いや、違わないんだけども、こう、なんか、あの
たまんなくてさ。」
会話で大体の事は分かる。勿論香りもそう漂ってきたのだから。
芙蓉は恥ずかしくなって俯いた。
「――全く、明慶様の好き好き芙蓉には呆れるわ!確かに、あそこまで想われ
るってなかなかなくて、幸せだとは思うのよ。けど、ねぇ・・・。」
木蓮は呆れながら明慶について語る。芙蓉は明慶からの好意をまだ純粋なものとして受けてめていない。・・・と、いうかわかっていない。
「明慶様はお子を作らなくてはならない身だから・・・。ほら、僕はまだ
ハッキリとした発情期も迎えていないし、イライラさせてしまっているの
かもしれない。申し訳ないな・・・。」
芙蓉の言葉を聞いて、木蓮は小さくため息を吐いた。
わかってはいた、芙蓉がこういうだろうとは予測はしていた。
しかし、こんなにも分かりやすく愛情を向けられているのに気づかないものなのかと少し不安にもなる。
あんなに2人で勉強してきたというのに、まだ読ませたりなかったのか。
ならば、奥に入ってからも勉強会は続行すべきだなと心に決めた。
「柳ヶ瀬様、芙蓉のお部屋には私が選んだ本を置いて欲しいのですが、
構いませんか?」
「ひーくん・・・。」
「え?」
「ひーくん、と呼んでくれ。」
黙っていればキリリとした面立ちの柳ヶ瀬が、頬をぽっと染めて面倒くさい事を言ってきた。
「ひ い ろ さ ん!本の件ですけどっ!」
柳ヶ瀬は残念そうな顔をしていた。おそらく芙蓉と自分が親し気に話している所を見て、羨ましくなったのだろう。
ハイクラスのアルファはとにかく独占欲が強い、ちょっとしたことでも対抗心を燃やしてしまう。
「大丈夫、木蓮が注文した本は直ぐに入るよう手配しとくよ。」
肩をがっくりと落とし、業者に連絡するために廊下へと消えていく後姿は、ほんの少し可哀想にも見えたが、ここで甘やかしてしまうとどんどん増長してしまう恐れが在る為、心を鬼にした。
「木蓮は柳ヶ瀬様と凄く仲が良いんだね。僕ももっと明慶様とお話できたら
いいのだけれど、どうしても会話が続かないんだ。」
芙蓉が困ったように話してきた、確かに怒っているのか喜んでいるのか全く読み切れない表情の明慶様と和んだ会話など芙蓉には難しいだろう。
媚びたりしないとはいえ、誰彼構わずつんけんする様なタイプではない。
相手が攻撃的だったり、人を物として見ているような人に対してだけはね付ける様な態度になるのだ。
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