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暫く走って到着した先は、それもテレビでよく見る江戸城だった。 睡蓮から外に出ることなど御呼ばれした時ぐらいしかなかった芙蓉達にはその想像以上の建物の堂々感に圧倒されてしまう。 こんな所に明慶様は住んでいらっしゃるんだ・・・。 そして僕は今日からここでお世話になるんだ。 期待よりも不安の方が大きい。昔からあるしきたりなどもあるのだろうし、自分達が勉強してきたことがここでは通じるのかどうかもわからない。 さっき聞いた話で側室希望の方々も既に奥入りされているらしい。 仲良く過ごせるといいのだが、自分はなかなか初対面の人に軽く言葉など掛けられるタイプではないからなぁ・・・。 芙蓉はマイナスな事ばかり考えてしまう。 「芙蓉様、お部屋はこちらになりますので、どうぞ。」 厳重な門をくぐった一階は、大きな広間になっていて、左右に扉があり会議などでつかうのであろう部屋がある。 中央に大きくて幅の広い階段があり、所々にスーツ姿の警備の人が立っている エレベータも準備されておりそこにもスーツ姿のいかつい警備に人が居た。 「―――あんまりじっと見たらおこられちゃうね。」 木蓮もキョロキョロとしており、こそりと話しかけてきた。 「そうだね、僕たち不審者に間違えられたりしないか心配だね。」 居住スペースは城の一番上とその下を丸々使っているらしく、エレベーターにぞろぞろと乗り込んでいく。 緊張し、ずっと下を向いていた芙蓉の手に、大きくて暖かい力強い手が重なって来た。 「―――大丈夫だ、何も心配するような事はない。」 見上げた先には、凛とした極上のいい男がおり、真っすぐに目を見て言葉をかけてくれる。 「はい、ありがとうございます。」 この男の顔や声は不思議と安心できてしまう、緊張してどうしようもないのに彼に大丈夫と言われたら、大丈夫なような気がする。 社交的で明るい木蓮もこの城の雰囲気には緊張しているようで、エレベーターの中は沈黙で機械の動く音がかすかに聞こえる程度だった。 上昇し続けるエレベーターは漸く止まり、開いた先に大きな扉が待っていた。 黒と茶色を基調とした重厚な扉は、ここが主の居住スペースである事を物語っているようだった。 「ようこそ、新居へ。」 差し出された大きな手に自分の手をそっと乗せる、その手が小刻みに震えているのを見て、自分が思ったよりも緊張している事を知った。 どんな大きな催し物の時でもこんなに緊張することなどなかったのに。 芙蓉は思わずクスリと小さく笑ってしまった。 不思議そうな顔でこちらを見ている明慶だったが、芙蓉は首を横に数回振り、何でもないと教える。 ズズズっと小さな地鳴りのような音を響かせ扉は開いた。
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