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「ここからが俺と君の住む空間だ。ここからは側室でも簡単には入れない。」
芙蓉はさっきのことからずっと言葉を発していない。
側室の事を想うとやるせない気分にもなったし、何より、明慶の言葉が頭から離れなかったのだ。
”愛している” その言葉を聞いた時、どうしてかわからないが、心臓がバクバクと音をたてはじめたのだ。
真っすぐな視線を向け、なんのためらいもなく伝えられた真っすぐな言葉。
まるでずっと前から自分の事を想っていたてくれたように感じた。
会ってまで全然時間は経っていないというのに、本当にずっと前から思われていたような言葉。
「沢山扉があって、分かりにくいだろう。でもセキュリティーの関係上
これくらいしないと駄目なんだ。申し訳ない。」
明慶は芙蓉の手を握ったままズンズンと進んでいく。
この将軍夫妻が住まう域はまた別格のセキュリティーが施され、先ほどの様にブレスレットの確認のほか、指紋認証、網膜スキャナーまでついていた。
勿論登録された人間ならこのセキュリティーを通過できるが、その認可がもらえるのは本当に一握りだけだ。
「このセキュリティーを通過できるのは、ここにいる人間のみになっている
芙蓉も、木蓮や、真絹には会いたいだろうから勝手に登録してしまった。」
常に自分のことを考えて行動してくれる明慶。
寂しくないように万全の体制を整えてくれている。
厳しいセキュリティーを通過した先には、広々としたテラス席があり、ここで食事をとったり、お茶をしたりできるようになっていた。
全面ガラス張りになっているが、外からは見えない仕様になっていて、特注の強度を誇る防弾ガラスだという。
そこから下を見れば、城下町が一望でき、車や人が動いているのが見える。
「母は、常にこうやって人々の動きを見守っていた。彼は双眼鏡も持っていて
よく覗いては柔らかい笑みをこぼしていたんだ。」
明慶は母親の話をし、とても嬉しそうな顔をしていた。
今の奥方様も睡蓮の元”花”だったという事はきいていた。
ピアノがとても素晴らしくて、国際音楽祭でも常にトップだったらしい
そんな話をしながらテラスルームを抜けると、また扉があらわれた
「ここが君の部屋だ、どうぞ。」
ひらかれたそこは、白と黒を基調とした落ち着きのある色合いを使った家具が置いあり、カーテンは芙蓉の瞳と同じダークシルバーグリーンでゆったりとしたソファーは一体何人座れるのだろうかと思うほど大きかった。
「・・・・わぁっ」
やっと出た言葉は感嘆の溜息。日差しが十分に差し込み、ここで毎日暮らしても恐らくなんのストレスも感じないだろう。
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