お返し地蔵

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私が小さかった頃からいつもそこにお地蔵さんがあった。 そのお地蔵さんは、必ずお返しをしてくれると言う言い伝えがあり、実際そうであった。 小さい子が飴をお供えすると、夜にはお父さんがケーキを買って来てくれたり、おばあさんが帽子を被せると、息子が服を買って来たり、と、必ずお返しをしてくれるお地蔵さんであった。 私は別に何も欲しい物は無かったのでお供えをした事がなかったが、友達とか近所の人とかは良くお供えをしていたのを子供の頃からよく見かけていた。 その内、私は大人になり恋愛をする様にもなった。 その頃にはすっかりお返し地蔵の事は忘れてしまっていた。 私はある男性と恋に落ち、結婚した。 毎日が幸せに満ち溢れていた。私程の幸せものは居ないだろうと思う程であった。 彼は私を大切に扱ってくれていてとても優しい人だった。 その内、彼の子供をお腹に宿した。 彼にその事を伝えると、彼は手離しで喜んだ。 私も彼の子供が産めると、この先ずっと彼と子供と一緒に、ずっと幸せに生きていけると確信していた。 そして可愛らしい女の子が産まれた。彼は涙を流して喜んでくれた。 彼はひと時も離れたくないという風で大切に大切にしていた。 そんな幸せ真っ只中に、一本の電話がかかって来た。 彼が電車の事故に巻き込まれたと、会社の同僚から伝えられた。すぐに娘を連れて家を飛び出し遺体の確認へ行った。遺体は肉片だった。今朝確かに彼が締めて行ったネクタイの破片…。泣き崩れた。 私は途方に暮れ村の外れを娘を抱き抱えて歩いていた。 ふと、お地蔵様が目に入って来た。 私はお地蔵様に手を合わせ、娘を置いた。 どこをどう帰ったのかは覚えていない。 すっかり暗くなってきていた。 家に帰り玄関を開けると電気が点いていて、中からドタバタと心配した顔の彼が出て来た。 「どこへ行っていたんだ!外回りから会社に帰ったら俺が死んだ事になっていた!家に帰るとお前も娘も居ない!」 私は訳が分からないまま、お地蔵様の元へ戻り娘を抱き抱えた。後ろからついて来た彼は驚いていた。 彼は、 「お返し地蔵さん…。」 と、呟いた。 私はすっかり忘れていたお返し地蔵さんを思い出した。 「ありがとうございます!ありがとうございます!彼を返して下さってありがとうございます!」 泣きじゃくりながら何度もお礼を言った。
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