クレイブンの魔法使い

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シエラ。 彼女の名前らしい。 少なくとも、この街に来るまではそう呼ばれていたらしい。 僕はタンスから僕の服を出し、彼女に渡した。 とりあえず、シャワーを浴びて、それに着替えろよ。 ちゃんと洗ってあるから大丈夫だ。 僕は彼女にシャワーの使い方を教えて、彼女をシャワールームに押し込んだ。 そして缶詰のスープを開けるとコンロに火をつけた。 「お湯が出ないわ…」 シャワールームから彼女の声がする。 確かにうちのシャワーはお湯の調整が難しい。 蛇口を少し回し過ぎると水になり、回したりないと熱い。 少しだけ左に回してみな。 僕はシャワールームの外から言う。 「熱いわ…」 今度は少し右。 少しだけだぞ。 「少し温いけど、これで良いわ…」 彼女の声がシャワーの音に重なり聞こえてくる。 僕は何故かそんなやり取りがおかしくなり、いつしか微笑んでいた。
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