クレイブンの魔法使い

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「何も思い出せないのよ…。だけど…」 彼女はまたスカートのポケットに手を入れる。 おいおい、またあの青い石か…。 僕は半ば呆れて顔を逸らした。 すると彼女は一枚の紙を取り出し、僕に差し出した。 クレイブンの魔法使い。 滲んだインクで、それだけ書かれた紙だった。 クレイブンの魔法使い…。 僕は彼女に訊く。 彼女は頷き、また微笑む。 「探してるの…。その魔法使い」 魔法使いを探すって言っても…。 僕はそんな魔法使いの存在さえ信じていないし、どこかに居るなんて事も聞いた事も無かった。 「一緒に探してくれなんて言わない…。けど、見つかるまで私をあなたの家に住まわせてくれないかしら…」 今日初めて会った彼女。 名前も知らない彼女。 それに僕だって男だ。 彼女は女。 一緒に住むなんて無理に決まっている。
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