0人が本棚に入れています
本棚に追加
/3ページ
「あー。お返し、どうしたらいいんだよっ」
その日、俺は迷っていた。彼女、萌愛からのチョコをバレンタインに貰ってはしゃいでいたのは良いけれど、そのあと萌愛は言ったのだ。
「優ちゃん。ホワイトデーは、10倍返しね?」
と。モナ…貴女の可愛さ、時に悪魔より怖いです!
という訳で、俺は店に向かう途中だったのだけど。当然、10倍返しのお金なんて、持ってない訳で。今悩んでるのだった。
と、そこに。フワリ、桜が舞った。同時に銀と黒を混ぜたような猫が現れて、俺に言った。
「おやおや、悩んでるみたいですねー。お客様」
「…猫、今喋った!」
「俺の名前は、クロエル。貴方みたいな困った人を不思議魔法店にお連れするのが仕事でね」
ニャーン。
クロエルは、右足を舐めた。
「ちょっと一緒に来てもらいましょうか?お客様」
銀と金の瞳が、光って。身体の力が抜けて。気がつくと俺は、不思議な店にいた…。
其処は、独特の店だった。有るのに、無い、という感じ。物も全てが触れば消えてしまいそうだった。
綺麗な店だったけれど、何で俺こんな場所に来ているんだろう。首を傾げた時。
「いらっしゃいませ、お客様」
パタパタと、水色のエプロンを付けて少し長めの髪を一つに括ったヤケにイケメンな店長らしい男性がやってきた。
「あの…俺は」
別に欲しいモノなんて無いし、此処にも…と続けたかったけれど。一瞬の目眩がして、俺は口が開いていた。
「隣の芝は青い、の芝、下さいっ!」
言ってからハッとした。何を言っているんだろう、俺は。
ところが店長さん。にこやかに笑うと、
「ございます」
小さな小鉢をさっと出してくれた。梅の花が咲いている。
最初のコメントを投稿しよう!