トマム

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アイスビレッジというリゾート会社が作った、氷と雪でできた街だ。レストラン、雑貨屋、お土産店、バーなどいくつかお店があって、中に入って食事したり買い物したりできる。 雪や氷の彫刻やオブジェもたくさんあって、あれこれ見て歩いた。 「すごい素敵ですね」 青白くライトアップされた作品やお店はもう映画のセットのようだ。 「観光客からお金を巻き上げるための、子供騙しだよ」俺はイキがって言わなくてもいいことを言った。 「先生、そんなこと言ったらどこにも旅行できませんよ。私たちはなんですか。地元民ですか。ホテルの従業員ですか?」 彼女は私の手を離し大きな彫刻に近づいた。 「俺たちはただの観光客だ。君が正しい」 「だったらロマンティックな夜を楽しんでください。子供に戻ったつもりで」 彼女は5メートル以上ある中世の騎士の彫刻の裏に回って見えなくなった。 俺は彼女の見てないところで、その雪像を蹴っ飛ばした。ただ、なんの意味もなく。いや、彼女に言い負かされていらっとしたのかもしれない。 突然雪像がかたむいたような気がした。俺が蹴ったから?そんなバカな。こんな大きな雪像がチンケなおっさんの蹴りで崩れるわけはない。 そう思って頭部を見上げた。騎士の像はゆっくりと彼女のいる方に向かって倒れてる。気のせいではなかった。 「危ない。逃げろ」俺はそう叫んだ。 「えっ、何、どうしたの?」彼女はどこを見ているのか気づいていない。 ギシギシ音がしてゆっくり像は倒れていった。 「キャー」彼女の叫ぶ声がした。俺はただどうすることもできず小さな声で「ああ」と言った。 雪像が倒れた時におそろしく大きな音「ズドーン」という音がした。その音は近くにいた観光客、従業員、その他いろんな人に聞こえたはず。
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