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寝かけては起きて目をこすり、コーヒーをすすった。今日の出来事全てが頭の中でぐるぐると回る。
スキーの時の彼女の溌剌とした姿。夕食の時の洗練された美しさ。部屋で何気ない会話を交わす時の愛くるしさ。
すべてが計算で女優としての仕事だとしても、彼女を好きにならずに、何に恋せよというのだ。俺はいい年をして恋が、どういうものかを初めて知った。
つい目で追ってしまう。つい彼女のことを考えてしまう。見事に俺は手玉に取られたのだ。
ストレッチャーに乗った彼女の青白い姿がまるで人形のように思い出される。もう一度あの太陽のような笑顔に会いたい。
手術が終わった。彼女が出てきた。
「連れの方ですか」医師が言った。
「はい」
「頭部の怪我、足首の裂傷、手術をいたしました。手術は成功です。しかし頭部の怪我で脳の組織がいくらか損傷している恐れがあり、麻酔が切れても意識が戻るかどうかは、現状なんとも言えません。心肺の方は問題なく動いております。ICUで様子をみて今後対応していきましょう」
「命に別状はないということですか」
「心肺には現状特に問題はないです」医師が少し強い口調で言った。
「意識が戻るかどうかわからないんですか」
「今は全身麻酔が効いています。その後のことはわかりません。それじゃ」医師は一礼してその場を立ち去った。
彼女の姿がチラッと見えた。髪の毛がなくなっていた。手術の時に剃ったのだろうか。美しい黒い艶の髪の毛がなくなってしまった。
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