病院

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俺はこれまでの経緯をまーちゃんに話した。新しい作詞の依頼でトマムに来たこと、昼はスキーをしてお洒落なご飯を食べ、アイスビレッジで事故にあったことを話した。俺が蹴ったせいで像が倒れたとは言わなかった。 彼女はただ頷き、相づちをうち、俺の手を握りしめた。俺はどうしていいかわからなかった。いつも明るい笑顔でテレビの向こうで頑張っているまーちゃんとは思えないほど、険しい顔をしていた。 医師がきた。マスクを外していた。思っていたよりも若い先生だった。30代後半だろうか。 「執刀医の沢井です。家族の方ですか」まーちゃんの方を見ていった。 「いえ、和歌の高校の時からの友人です。私が家族に連絡しました。病院に家族が来るのは、今晩になりそうです。和歌のお母さんと話しました」 「こちらの男性にも説明しましたが、もう麻酔は切れているはずです。意識が戻ってもおかしくないんですが、脳に損傷があって脳波も不安定です」 「和歌に会えますか。話しかけたいんです。声が届くんじゃないかと思うんです。私たち親友なんです。東京に出てきて、二人で励ましあって頑張ってきたんです。先生?」 彼女が俺の手を強く握った。先生が少し考え込んだ。 「いいでしょう。会って話しかけてください、あなたも」医師は俺を指した。俺は彼女に合わす顔なんてない。こんなことに巻き込んでしまって、どうすればいい。 二人とも何かしらの殺菌された服を着させられ、ゴムで伸び縮みするキャップをかぶった。部屋に入ると彼女がいた。いろんな機械や線や管が彼女とつながっている。脳波計だろうか。それとも心臓のモニターだろうか、画面があってピコーンという音を立てていた。
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