病院

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「和歌。きたよ。どう?痛かった?」 まーちゃんが和歌に近寄って、静かに話しかける。俺もベッドの横に立った。話しかける言葉が浮かばなかった。ごめんなさい、そういう言葉が出そうになったが、俺の中の何かが止めた。 「和歌。今どこにいるの。舞台?それとも私たちが通っていた高校。文化祭でバンドやったね。いきものがかりのコピーをしたんだよね。和歌はベース弾いてたんだよね」 医師がこちらを見た。俺も何か話せということか。 「和歌。大丈夫か。トマムは思っていたより寒かったね。晩御飯のお肉美味しかったね」 どうして晩御飯の話などしたのだろう。もっと伝えたいことがある。君に会えてよかった。そう言いたかった。 「和歌。先生がお肉美味しかったって。よかったね。和歌はお肉好きだもんね。もうお昼過ぎちゃったよ。もうそろそろ起きなきゃ。お昼ご飯食べなきゃ。先生のおごりで美味しいもの食べなきゃ」 起きてくれ、和歌。起きてくれたら、なんでもおごる。ステーキでも焼肉でもすき焼きでも好きなとこ連れてってやるから。頼むから起きてくれ。 「寒いし、すき焼きでも食べに行こうか」 医師がまたこちらを見た。どういうメッセージだろうか。それとも気のせいか。 「ねえ、和歌。いい加減に起きてちょうだい。みんなお腹空いているの。ちょっと疲れてもいるのかな。あなただけのんびり寝てる場合じゃないんだから。起きなさい、ハゲ」 「ハゲ」のところで脳波計が大きく動いた。俺とまーちゃんは顔を見合わせた。 「起きなさい、ハゲ。ご飯に行くぞ、ハゲ」 和歌が「ハゲ」をたたみかける。明らかに脳波計が大きく動いている。 「ハゲ、ハゲ、ハゲ、ハゲ…」俺とまーちゃんはハゲを連呼した。
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