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突然忙しくなった。深夜のコント向けの下ネタシンガーソングライターだったはずなのだが、ひょんなことからミリオンヒットが生まれ、沢山の作詞の依頼が来た。 時代にハマったのか、それともメディアがバカなのかよくわからないが、プロデューサーという名前のお仕事を持つ人は、どうやら新しい挑戦をするより、売れたもののコピー作品を好む傾向にあるらしく、俺が深夜時代に作ったような荒唐無稽な曲よりも、口当たりのいい、おしゃれな曲を好む。 テレビのドラマとタイアップするにしても、CMとタイアップするにしても、乳輪からはみ毛がどうしたみたいな曲はイメージダウンになるので、だめだそうだ。 そうなるとばキャブラリーの乏しい俺としては当然、彼女に頼るしかない。俺の曲をミリオンヒットにしてくれたマーちゃんの友達の女優、本間和歌だ。 和歌は小劇団の主役を張っている女優さんだが、それだけでご飯を食べていくことは出来ず、あれこれバイトをやっていた。 俺は作詞のモデルとして和歌を使った。彼女の鋭い感性は時代にマッチして、依頼された状況にあった設定で俺たちは会い、なにがしかの体験をしそれを元に詞を書いた。 「先生、次はどんな設定で依頼が来てるんですか」 いつものカフェで待ち合わせをした。彼女は打ち合わせの時はすごいラフな格好でやってくる。メイクもしていない。パーカーにジーンズといったような感じ。彼女はオフの時は地味でオーラがない。 「ウインターソングだ。広瀬香美みたいなやつで、でももちろん現代的で、なおかつヒットするやつが欲しいそうだ」 「言いたいこと言ってくれますね。代理店の人ですか?」彼女はマグカップでホットココアを飲んでいた。俺はホットコーヒー。 「そんなバカなこと言うのは代理店の頭の悪いやつしかいない。まともなやつならヒットするやつとか言わないだろう。ヒットさせるかどうかは、むしろ代理店の腕にかかってるんじゃないか」 「でも先生、先生の『寄せてあげて、喜んで』はどう頑張ってもヒットしませんよ」 そうだ。あれはみんなに迷惑をかけた。申し訳ない。
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