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弁当とおにぎりとサンドイッチと飲み物を適当に買い、病室に戻った。
まーちゃんも寝ていた。現役アイドルなのだから、毎日忙しいのだろう。この子のおかげで俺は今も音楽を飯のタネとして生活できている。彼女が俺のファンだったから。
俺の気配を感じたのか、彼女は起きた。
「先生、帰ってたんですね。少し寝てました、私」
「忙しいんだろう?アイドルってのも難しい仕事だ」
俺たちは弁当、おにぎり、サンドイッチを分けっこして食べた。
「私もお腹すいた」突然和歌がそういった。俺たちは和歌のベッドの脇に駆け寄った。
「和歌。気づいた。どう?大丈夫」
「まーちゃん、私、お腹すいた」
「でも、点滴が入ってるから、お腹すかないと思うけど」
「どうして私点滴されてるの、ていうか、ここどこ?病院?あなた誰?」和歌は俺をみた。
「俺がわからない?」
俺とまーちゃんは目を見合わせた。
「私は?」
「まーちゃんじゃない。何言ってんの。昨日も一緒に遊んだじゃない」
「昨日…ね。いつも一緒だったから…私たち」
「僕らは一緒にここへ旅行に来たんだよ。ここはトマムだ。和歌…」
「どうして私があなたと旅行してるの。意味わかんない。どうして私の名前を知ってるの」
「和歌。ちょっと記憶が混乱してるみたいね。この人は作詞家の先生なのよ。あの深夜番組の面白い歌を作ってたのは、この先生なのよ」
「昨日も見たよ。『夜のシジミはコンドロイチン』でしょ。昨日の歌は『童貞だもの』って歌だったね。おかしかった。腹がよじれるかと思った」
あの番組『夜のシジミはコンドロイチン』は、もうだいぶ前に終わっている。俺がかろうじて音楽業界にとどまることができた、深夜のコント番組。下ネタとシュールを掛け合わせるサブカルやカルトが好きそうな人のための番組だった。
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