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蒸し暑い日の夜のことだった。目の前には学舎長。きょとんとした顔を向けている。
「ごめん。もう一度言ってもらえるかい」
「はい。……魔法講師を退職させてほしいんです。急な申し出で申し訳ないですが」
その言葉に学舎長はあんぐりと口を開ける。退職を願い出た女性は、ルーチェといった。彼女は学舎長の様子などおかまいなしに続けた。
「私、今年でこの仕事、3年目になります。月日を重ねるごとに仕事にも自分にも自信が持てなくなっています。3年は仕事を続けないとそれが自分に合っているかどうかは判断できないし、良さも理解できないって言いますよね。3年続けてみて、私にはこの仕事は向いていないと分かりました。別の仕事を始めようと思います。だから退職させて下さい」
茫然としながらも学舎長は神妙な面持ちで彼女の退職の意を受け入れた。ルーチェは学舎長室を後にしながら、ほっと溜息をつく。
実は自分でも退職を願い出たことに驚きを隠せないでいた。3年目に突入した日から退職しようと思っていた。しかし同時にどうせ転職したところで何も変わらないし、他に雇ってくれる職場なんてない、そう思っていた。
しかし彼女は心の赴くまま学舎長室の扉をたたき、退職を願い出ていたのだ。
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