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第14話 ドラゴンは勉強が出来ない
「先手必勝!!『水刃斬』!!」
戦闘開始と同時に俺は高速で突き進む水の刃をライデンに向けて放つ。
『『電磁障壁』…』
ライデンが身体から放出した電流を身体の全周囲に展開、俺の『水刃斬』は簡単に防がれてしまった。
『何だ?そんなものか?』
「うるさい!!これならどうだ!!」
俺は上空に飛び上がり、上空から『水刃斬』を両手で交互に連続発射した…しかし一発目同様、全て『電磁障壁』に掻き消されてしまった。
いや掻き消したと言うより分解してしまったと言うのが正しいか。
奴の周りには水滴一つ残っていないのだから。
前世の学校の科学の授業で水は電流を流すと水素と酸素に分解されると習った。
…って事は俺がいくらライデンに水の魔法を放っても全て分解されてしまうのでは?
相性が悪すぎる…これって対戦相手として詰んでるんじゃないのか…俺。
こんな事になるのが分かっていたらもっとドラミと対戦して対雷属性の経験を積んでおくんだった…今となっては後の祭りだが…。
『もう終わりか?ならばこちらから行くぞ、『追尾式雷光球』』
ライデンが魔法を唱えると、彼の身体から滲み出た電気が複数の光の球となり宙に漂う…それはフワフワとゆっくりこちらへ向かって来たではないか。
「そんなもの!!」
俺も『水刃斬』で応戦、いくつかの雷光球を撃ち落としたが、個体により速度の差があるようで目の前の物を撃ち落としている内に既に高速で俺の背後に回り込んでいた雷光球を背中から喰らってしまった。
「ぐああああっ…!!」
全身を駆け巡る猛烈な痺れ…目の前に文字通り星が飛んでいる。
ジュウゥゥ…と音を立て俺の背中の表皮が焼け、焦げ臭い煙が辺りに漂う。
力尽き地面に落下するも、何とか体勢を立て直し脚から着地する事が出来た。
『なんと情けない…もう少し見どころのある奴かと思うたが儂の買い被りであったか…』
「言ってくれるね…俺はまだ本気を見せちゃいないんだぜ?」
嘘である…俺にはもうろくな攻撃手段がない…しかしここで弱みを見せる事は相手を調子づかせることになりかねない…だからハッタリでもいいから虚勢をはる必要がある。
それにしても厄介なのはあの『電磁障壁』というバリアだな…あれは遠距離攻撃魔法どころか接近戦すら許してくれない。
そして極めつけに『追尾式雷光球』という自動追尾型の遠隔攻撃魔法…。
おかげでライデンの奴は攻守において身体を動かす必要すらないのだからな…
まるで『生ける要塞』だ。
だが何も出来ないからとにらめっこを続ける気は毛頭ない…ここはなりふり構わず攻撃に転じるしかない。
俺は手近にあったそれなりの大きさの大岩を担ぎ上げライデンに向かって放り投げた。
「喰らえーーーーー!!」
『なんと…!!』
ライデンも面食らったらしい…ドラゴン同士の戦いでこんな原始的な攻撃をしてきた奴は俺以外に居まい。
『『電磁障壁』!!』
ライデンも咄嗟にバリアを展開、大岩を砕くことに成功するも大き目の破片のいくつかがバリアを通り抜け顔に喰らってしまう。
『ぐああああっ…!!小童め~~~!!ふざけおって!』
顔を押さえてのたうち回るライデン…ほう、完全無欠のバリアだと思われた『電磁障壁』だったが、魔法や水などの無形のもの、質量があまりないものには部類の防御力を誇るが、ある程度質量のある物理攻撃なら通過する事が出来るのか。
確かに電気の網の様な見た目で隙間があり均一に防御している様には見えないよな…。
「はっ!?」
ここで俺の頭の中に例の閃きが起った…この閃きが起ったと言う事は新しい能力に目覚めた証拠だ。
(『浮遊式水泡』?)
新たに覚えた魔法は空中に魔力の籠った水の泡を俺の思うがままに設置するもののようだ。
防御に使えそうだが、今の俺には攻撃魔法が欲しい所なんだがな~。
だが何事も工夫次第でどうとでもなる…ここは俺の小賢しい頭の使いどころだ。
『こうなればもう手加減せぬ!!一気にカタを付けさせてもらおう!!』
あれ、ライデンさん…何をそんなに怒っている訳?
どうやら俺はライデンの逆鱗に触れてしまったらしい…確か逆鱗て触れてはいけない龍の鱗の事だったな、まさに今の俺達にはぴったりの表現だ。
『『追尾式雷光球』!!』
またそれを出して来たな?
今や俺にはそれに対抗する手段があるんだぜ…見よ!!
「『浮遊式水泡』!!」
空中に風船の様に漂う水泡が複数現れた…『追尾式雷光球』はその水泡を敵と認識して次々とぶつかり相殺されていく。
『なんと…小童よ、手の内を隠していたな?』
「へへっ…当然だ!!まだまだこんなもんじゃないぜ!!」
嘘です…今覚えたばかりです…だがこう言っておけばライデンも迂闊に手を出しにくくなるだろう。
しかしそれは俺も同じなのであった、さてこれからどうしよう…水魔法は全てバリアで文字通り分解されてしまうしな…分解…そう分解…分解!?
そうか!!これはイケるかもしれない!!
俺は今思い付いた方法を実行に移す為行動に出ることにした。
「『浮遊式水泡』!!」
再び水泡を召喚…しかし今度はかなり大きめなのを三つ。
その内の一つを掴みライデンに向かって押し出した。
『お前も既に知っておろう…水属性魔法は儂には効かぬぞ?』
「うん、知ってるよ…」
案の定、水泡は『電磁障壁』によって分解されてしまった…しかし俺は構わず次々と水泡を奴に向かって放り続ける…勿論全て同じ結果だ。
『何のつもりかは知らぬが徒労に終わったな…次はこちらの番…うぬ?何だ?』
「掛かったな…さっきの水泡はただの泡じゃなかったんだよ、
泡に『温度操作』の魔法を付加してあったんだよ!!」
『温度操作』の効果によってライデンの足元が見る見る凍っていく…奴の脚にも氷が張り始め身体を登っていったのだ。
『おのれーーー!!計ったな!?』
「ほらほら、すぐにそこを退かないとカッチカチに凍っちまうぜ~~~!!」
ライデンは必死にその場を離れようとするが、とても動きが緩慢だった。
これは寒さで身体が強張っているばかりではない、身体の老化から来るものだ。
奴の行動はどれもこれもその場に陣取ったまま行えるものだったが、それは裏を返せば身体を動かす事が出来ないことをカムフラージュするための行動だったのだ。
遂にライデンの全身を氷が覆ってまった…奴はピクリとも動かない。
「やったか!?」
これで終わったのなら御の字なのだが、思わず俺、今なにげに禁句を口走ってたよね?
『貴様~~~~…許さんぞ~~~…』
あーーーっ!!やっぱりーーーー!!
ライデンの頭部の氷だけが崩れ落ち、口先だけが露出した。
『こうなったらもう我が身がどうなっても構わん…最大出力で『雷鳴波』を放つのみ…!!』
「何!?あんた、俺を道ずれに自滅する気か!?自暴自棄になるのはやめろ!!」
ライデンの胸の辺りが光り輝いている…それはどんどん喉を伝って上に昇っていき、遂には口のところまで到達した。
『知った事か、既に儂の寿命は尽き掛けておるのだ…この一撃は広範囲を電撃で薙ぎ払う…今からではもう回避は不可能…』
開口した口の中の光が更に大きくなる…俺が勝手に電磁砲と呼んでいた攻撃はこうやって放っていたのか…。
「やめろって!!そんな事をしてもあんたは俺を倒す事は出来ない!!犬死するぞ!!」
『言うに事欠いて儂を犬呼ばわりするか!!もうまかり成らーーーーーん!!』
「止めろって言ってるだろう!!もう勝負は着いてる!!」
発射を止めさせるため『水刃斬』を顔に向かって放ったがライデンは一向に止める気配はない。
遂にライデンは『雷鳴波』の発射体勢に入った。
『喰らえぃ!!』
『雷鳴波』を発射した途端、ライデンの口元で大爆発が起こった…その爆発は連鎖を起こし次々と複数回の爆発が発生…
俺は爆風の煽りを受けて吹き飛ばされ、森の木に背中からぶつかり止まった。
「あいたたた…だから止めろって言ったんだ…」
俺は背中の痛みに耐えながら岩場まで歩いて戻った…足元にはライデンが倒れている。
『…一体…何が起こった…?』
弱々しく首をもたげ、見えない目で俺の方を向きライデンが尋ねる。
「俺がアンタに向かってデカイ泡を投げつけただろう?あれは『温度操作』の魔法をあんたに掛ける為だけにやったんじゃないんだよ…
本当の目的は泡を、水をあんたに電気で分解させることにあったんだ…」
『何…?』
「水は電気によって水素と酸素に分解されるんだよ、だからあんたに分解された水泡はあんたの周りに大量の水素と酸素を充満させていた…あんたが何かしらの魔法を使って引火し爆発するのを狙ってね…だけどまさかあんな強力な魔法を使うとは思ってなかったからな~ここまで大惨事にするつもりはなかったんだ…済まない」
『…何を…言っている…?理解できない…』
「悪いな…これ以上の説明は難しいんだよ」
戸惑うライデン…それはそうだろうな、ファンタジー世界に住人に科学を理解しろというのは無理な話だ。
『成程…儂が知り得ない未知の知識を用いた戦略を弄したのだな…完敗だ…
これ程の知恵を使いこなすお前になら儂は負けても本望だ…』
「ライデン…」
『『世界を保つもの』の使命はとても重い…世界に、そこに生きる者全てのの命に責任を持たなければならないのだ…生半可な覚悟の半端ものには任せられない…だから儂は貴様を試したのだ…』
「そうだったのか…」
ライデンはライデンで自分の中の矜持を貫き通したんだな…命を懸けて。
『儂を倒したのだ、約束通りこの地は貴様に託す…後は頼んだぞリュウジ…』
そう言い残しライデンの身体はバラバラに砕け散ってしまった…彼の身体は既に限界だったのだ。
「ああ…任せてくれ…ここだけじゃなく俺はドラゴニア全体を住みよい世界にしてやるぜ!!あの世から見ていてくれライデン!!」
俺は新たにライデンの遺志をも受け継ぎ、自分の信念を貫くべく更に決心を固めたのだった。
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