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しばらく走り続けただろうか?息が苦しくなってきた。しかし、そんな私達の目の前に泉が現われた。よかった……これで、少なくとも体を綺麗にすることくらいは出来る。私は泉の傍に腰を落として、両手で水をすくい、体に注ぎ、汚れを落とそうとしたが、汗と血でべっとりとこびり付いた汚れはなかなか体から離れてはくれなかった。
体の汚れを落とすのに苦労している時、私は背後からの人の気配に気づいた。
「はっ、誰?」
素早く振り向く私……
「大丈夫ですか、お嬢さん?坊や?見たところ、怪我でもしているようですけど」
私の背後に立っていたのは、優しそうな感じの青年だった。怪我をしている?確かにこの姿を見ればそう思ってしまうかもしれない。私と勇真の体は血塗れだ。
青年は静かに腰を下ろし、私を気づかってくれた。青年は背荷物の中から布切れを出すと、それを泉の中に浸し私の体を優しく拭いてくれる。私の体から消えていく汗と血がこびり付いたおぞましい汚れ……。
この青年は、私の体を綺麗にすると、勇真の体も綺麗にしてくれた。
「ありがとう」
今の私に出来る精一杯のお礼……。他人からこんなに親切にしてもらったのは、私達は生まれて初めてかもしれない。
「よかった。どうやら、体に深い傷は負っていないようですね。これからどちらに向うのですか?」
青年は私達に何の違和感を持たずに尋ねてきた。
「宛はありません。二人だけの宛の無い旅ですから」
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