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「そうですか。私は先を急ぐので、これ以上貴女達と一緒に過ごすことができません。しかしこれから先、裸で旅をする訳にもいかないでしょう。しばらくは、この服で我慢して下さい」
青年はそう語ると、私と勇真に服を渡し、この場を去った。
初めて受けた他人からの親切。心に何か暖かい物を感じると供に、涙腺が緩み、涙が流れ始めた。こんな気持ちになったのは、生まれて初めてだろう。あの人がずっと私達と一緒に旅をしてくれたなら……。叶わない幻想を抱く私。叶わないとわかっているのに、私から離れることの無い幻想。私にとっては、残酷な幻想だ。けど、ついついあの青年と自分が一緒にいる幻想を、心の白いキャンバスに淡い色彩で描いてしまう。
いけない!
決して描いてはいけない幻想!
決して考えてはいけない幻想!
自分に何度言い聞かせても、止まることなく、次々と頭の中に描かれていく幻想。
そして、私の口からこぼれ落ちる、決して許されることのないモノローグ!
「勇真が一緒じゃなかったら……」
私は、はっとして、思わず両手で口を抑えた!
しかし、遅かった!
慌てて勇真を見つめる私!
勇真の表情が変わっている!
さっきまで、ぼさっと空をながめていた勇真じゃない!何かとても重苦しく哀しい表情に変わっている。そして、瞳から涙を浮かべながら、私を睨み付ける勇真!
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