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燈と呼ばれた青年は、少し申し訳なさそうな声で言った。
「すまない、今はこれくらいしか食べられるものの在庫がないんだ」
すると、高圧的な物言いの青年が、ふんっと鼻を鳴らして言った。
「どいつもこいつも、まともな供え物をよこさねぇ。こっちには、願い事を叶えろっていうくせに、まともな報酬をよこさないなんて、常識外れもいいとこだ」
それを聞いて、留花は困惑する。この人たちが願い事を叶えてくれるとでも言うのだろうか。
留花が怪訝そうな表情をしていたのを見て、|燈≪あかし≫と呼ばれた青年が高圧的な物言いの青年をたしなめる。
「潮。そういった話は控えろと言われてるだろう」
「そんなこと言ったって。オレはもうこの仕事を降りたいんだよ。こりごりだ」
「仕事を辞めてどうする? 自分たちでどうにか生きていく方法を見つけるなんて、無理な話だぞ」
留花のことなどおかまいなしに、燈という青年と、潮と呼ばれた青年が口喧嘩を始める。
「そもそも、おれたちがここから出られない以上、現状を変えようがない。外からの助けが必要だ」
「助けなんていらねぇ。そもそも助けを求めるってのは、どうやるんだ?
『オレたち、この神社に住まう狛犬なんだ。神様の代わりにここを守っているけど、信仰してくれる人がいなくなって困ってるんだ、助けてくれ』って頼むのか」
潮が自嘲めいた笑いをもらす。
「バカだねぇ、燈。人間は自分の特にならないことに手は貸さないぜ。そもそもその人間がオレたちの言うことを信用してくれるのかってハナシだ。信じてもらえなかった場合、どうなる? オレたちはおろか、うちの神様までいい笑いものになっちまう……」
そこまで言ってから、はっと潮は我に返ったように言葉をとめた。そして、ゆっくり燈の方を凝視する。燈は体は潮の方に向けたまま静かに、留花の方を指さしていた。
潮は、固い表情で留花の方をゆっくりと振り返った。その表情は、完全に留花がこの場にいたことを忘れていたことを物語っていた。
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