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「あの!」
「はい?」
女性は呼ばれて立ち止まり、こちらを振り返る。そこへと足早に近づいたオルトンは、勇気を振り絞って言った。
「先程は、有り難うございました。俺は、オルトン・フィッシャーと申します。お名前を、伺ってもよろしいでしょうか?」
問えば女性はキョトッとしながらも、次には綺麗な笑みを浮かべた。
「オーレリア・アベルザードですわ」
「アベルザード!」
驚いて目を丸くして、オルトンは驚いた。アベルザード伯爵家と言えば帝国でもしっかりと基盤を持つ家柄で、縫製業では強い家だ。
尻込みしてしまいそうだ。けれど、勇気をもって声をかけたのだ。グッと踏みとどまって、声を振り絞った。
「オーレリアさん、あの……今日のお礼を、させてください。後日、ランチでもいかがですか?」
勇気を振り絞って出た言葉に、オルトンはほっとする。
一方のオーレリアは驚いたように目を丸くして黙ってしまった。
ダメだろうか。こんなパッとしない男では、誘われても迷惑だろうか。そもそも出会いがあまりに情けない。格好がつかない。
けれどオーレリアは悪戯っぽい笑みを浮かべ、少し考えて言った。
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