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女性は視線を上げないままでそんな事を言う。冷たい水に綺麗な手を濡らして、オルトンの為にしてくれる。凛とした横顔はとても美しい。
「それにしても、もう少ししっかりなさいませ。男でしょ」
「しっかり、か……実はこういう場が苦手で、気が引けて……帰ろうかと思っていたのです」
長身を小さくして、オルトンは呟く。青い瞳がチラリと彼を見て、外された。
「苦手なのが分かっていて、なんで来ますの?」
「……弟に、心配ばかりかけてしまって。長男として兄として、少しでも安心させてあげられればと……社交性を身につけたいと思って」
「似合いませんわね」
ズバリと言われて少しへこむ。俯いていると、不意に近づいてくる気配があった。
「女性を探すにしても、場所を間違っていますわ。貴方にはここよりも、もっと落ち着いた場所が似合っていますわよ」
洗い終わったシャツを手にしたまま、女性は笑う。その笑顔は思ったようなきついものではなく、凛と穏やかに思えた。
「シャツはここに預けて、クリーニングに出して貰いましょう。後日取りに来ればいいわ」
テキパキと女性はそう言って、シャツをスタッフに渡している。そしてそのまま離れてしまいそうになる。
『肉体的に強い女性じゃなくて、精神的に強い女性のほうがいい』
ボリスの言葉が不意にして、オルトンは咄嗟に女性に声をかけていた。
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