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その時、軽いノックの音がした。
「先生、いる?」
戸は開かないまま、声が問いかけてくる。ここでドアを開けなければいい。何とでも言える事だ。明かりも落としてあるから、居留守も「寝てしまった」でも言い訳はできる。
でもリカルドは立ち上がってしまう。そしてドアを開けるのだ。
「あっ、良かった。どうしたの? なんだか浮かない顔してるけれど」
屈託のない笑顔と、心配する言葉と表情。飼い主を案ずる犬の目に見える。だから、思わずヨシヨシしてしまうのだろう。
「先生?」
「……大した事じゃないんです。少し、疲れているだけで」
「え! あぁ、じゃあ今日はこれで帰るよ。寒くなってきたし、先生忙しかったんだから休んだ方がいいし。ごめん、俺気付かなくて」
慌てたように目を丸くして退散宣言されたら、胸の奥が切なくなる。離れたくないんだと、何処かで訴えている。
でもまさか、言えない。彼との関係が、その距離の適切さが分からなくて悩んでいるなんて。
「先生、ゆっくり休んで。次の安息日前日には、お邪魔してもいいかな?」
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