年上としての矜持(リカルド)

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 「いい」と言うのが今までの自分。でも、負担ではない? 重くはない? 頼りすぎていない? こんなに頻繁に会いたくて、キスをしたくて、体温を感じていたいなんて。受け入れてくれるのだろうか。 「あの、少し疲れているので次の安息日前日は」 「え? あぁ、うん。そう、だよね。ごめん俺、気付かなくて。顔色もあまり良くない見たいだし、元気ないから。そうだよね、恋人とはいえ個人の時間も大事だし」  ほんの少し浮かぶ戸惑いの表情。悲しそうな顔をするチェスターを見て、何か言わなければと思うのに言葉が出ない。全部言い訳に思えて出てこなかった。 「じゃあ、おやすみ。ちゃんと寝てね」 「はい、おやすみなさい」  去って行くチェスターの背中を、こんなに寂しく見送るのは初めてかもしれない。募る想いを押し殺すなんて、経験がない。今ならまだ手や声が届く。思うのに、それができないリカルドがいた。
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