かくのごとし

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「おう、絢鷹。目を覚ましたか」  (とこ)を抜けようとしたとき、(ふすま)が開いた。相手の男だ。   「ほら。新しい下帯と着物だ。行水してこい。そうしたら頭領(とうりょう)に報告だ。そうだな。お前、初めてにしては上出来だったぞ」 「張型(はりがた)で慣れておくと楽だと聞いていたので。でも、大山さまのご指導あってのことです」 「どうりで。すんなりといったはずだ。ま、俺は思わぬ役得だったよ」  相手の男、大山は上機嫌で艶の出た自分の面をさすっているが、大山が特別手練れだったわけではない。絢鷹が丹念に準備していただけだ。  絢鷹は二日の(のち)、初の任務が決まっている。それまでに最後の修練を済ませておく必要があった。それが、今まさに終えたばかりの房中術だ。  里を持たぬ(しのび)、〈(かまり)〉に属する彼らは学びの窓は持たない。  こうして錬者が若輩に指南し、技を受け継いでいくのだ。 「まだ若いからな。夜伽(よとぎ)の任務がわんさと来るぞ。またいつでも指南してやるからな」    事後、身の内に残った(くすぶ)りを知らぬ男がぬけぬけと言う。絢鷹はまったく冗談ではないと、激しく首を振った。  ただでさえ、決まっていた指南役が任務から戻らず、日が差し迫ってきたため絢鷹は大山に身を任せるいきさつとなった。そのことで絢鷹はささくれだってるのだ。 「……もういいですよ。さっきのはお世辞です。俺、なんだか物足りなくてさっき一人で抜きました」 「はっはっは! 言うなあ。これは頼もしい。ではもう行け。俺はここを片付ける。頭領のところへは早めに行った方がいいぞ。少し慌ただしくしていたからな。出かけてしまうかもしれない」 「はい。――ご指導ありがとうございました」    絢鷹は作法どおり、三つ指を付いて礼を装った。
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