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言わずもがな、絢鷹にそんな気はない。すべて物心もつかぬ前の出来事だ。絢鷹にとっては今がすべてだった。
「申し上げます。頭領の御心は痛み入りますが、虚駆の話は私にとって夢物語です。知らぬ派閥の再建など、望みようもありませぬ。それよりも、私はこの参鳥で育ち、技を学び、ここまでやって参りました。ここでこの参鳥の手足となって働きたいのです」
「そうか。よくぞいってくれた。俺が虚駆派を惜しむ気持ちは本当だが、お前はそう言うと思っていたよ」
絢鷹の言葉を聞くと、伊右エ門は一つ柏手を打つと大きな声を出した。
「よし、これより絢鷹に初の任務を申しつけよう。仕事は一月後だ。その前に最後の修練を済ませなくてはならない」
最後の修練――房中術だ。
脇に控える男に「辻里」、と声を掛け、伊右エ門は話を続けた。
「お前が相手をしてやれ」
「はい」
辻里は静かに返事をした。
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