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冬の夜は眠れない。
寝たら死んでしまうからだ。ホームレスになってもまだ死を回避しようとする自分の思考はいまだによく分からないままだが、もうルーティンになっていて考える気すら持ち合わせていない。冬の夜はとにかく歩き回る。寝ないように徘徊し続ける。毎晩六時間程度歩き回り、空き缶拾いをしながら自動販売機のおつりが出てくるあの箇所に指を突っ込み続けて回る。拾い集めた缶は収集所に持っていけばいくらかの銭になる。
冬の間は毎晩こんなことを続け、朝日がのぼれば俺は少しだけ眠ることが出来るのだ。
日雇いの仕事が舞い込むのは本当にありがたい。だからホームレス同士のネットワークは欠かせない。俺は何をしているのだろう? 俺は何をしてきたのだろう? 最初からホームレスだったわけじゃない。ただ思考が停止してしまっただけだ。生きたくて生きているわけではない。ただ、生きているから生きているのだ。
いつかうっかりルーティンを忘れて、もしくはちょっとした銭が入って酒を飲んでしまい、俺は冬の夜、眠りについてしまうかもしれぬ。そうしたら俺は死ぬ。全てが終わって、楽になれるのだろうな。
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