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校門を出たところで甘えた声が健一を呼び止めた。
「せんせぇ~、何かごめんねえ」
植野弥生だった。
別に植野に腹を立てているわけもないので、健一は「いいよ、いいよ」と笑って手を振った。
すると弥生が近づいてきて、健一に何やら可愛らしい小箱を手渡した。
「バレンタイン終わっちゃったけど、これ、特別なプレゼントだからね!」
健一は、ありがとう。と言って弥生から離れた。
自分に明らかに好意を持ってくれていた女子生徒の視線を感じながら振り返らずに新しい世界へ向かう一匹狼の教師。
うん、悪くないな。と健一は思った。若干ナルシストなのだ。
今回の赴任校では、生徒の質に合わせて思い切り堅物のお坊ちゃま先生を演じた。次の学校はもう少し気楽にやれるところがいいな。
そんなことを考えながら帰路についた。
弥生の包み紙を開けたのはその日の夜だった。
甘いものはそれほど好きではないが、腹の虫抑え程度にはなるかと思い、封を開けたのだ。
「あれ?」
チョコと思っていた包装紙の中には手紙が入っていた。
「竹井先生へ
私のお父さん、○○学園の理事長なの
ここに電話してね。00-0000-0000
今日のお詫びに再就職先お世話してあげる」
健一は思った。
人生渡り歩くのなんて、チョコなんかよりずっと甘いなあ、と。
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