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大砂海帝国の広い王宮の中で、シオンはひたすらに足を動かした。ただこの現実から逃れたくて、プリムラの言葉を聞いていられなくて逃げ出した。
足は自然と人のいない場所を目指していた。
ふと気がつけば鼻先を素馨の香りが擽った。いつの間にやらシオンは本殿の中庭に面する回廊にまで来ていた。図書館からは随分と距離がある場所だ。
はあ、と息をついたシオンは回廊に並び立つ雪花石膏の柱に体を預けずるずると座り込んだ。
「何をやってるんだ俺は…」
人のいない静かな場所。目を閉じれば鳥の声以外は何も聞こえない。
普段ならば直ぐに落ち着くはずの心が、未だにざわめいていた。
プリムラの言葉がまだ耳に残っている。
――お前自身は今どうしたいのよ。
そんなもの。
「傍に、いたいに…決まってる」
胸元を強く握りしめて吐き出した言葉は泣きそうな声をしていた。ジャーミアがムスタファを愛していても、シオンの気持ちが冷めることは無い。
今もどうしようもなく焦がれて、手を掴んでこの胸に閉じ込めてしまいたい。
「(姫は傍にいろと仰るだろうな)」
それでもその役目は、自分では駄目なのだ。
大して話すことも出来やしない、こんな男では。
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