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「昨日のことではなく俺個人からの話です。関わりが全くないというわけではありませんが」
お付き合い頂けますか?というムスタファからの誘いは、正直憂鬱で気乗りはしなかった。
勝手だとわかっていても、ジャーミアの気持ちを知ってしまった今ムスタファの顔は見ていたくなかった。
気がつけばこの場をやり過ごす為の嘘をついてしまっていた。
「申し訳ありません。姫のことが、ありますので…」
今しがたその姫を置いて逃げてきたばかりだと言うのにどの口が言うのだろうか。従者が主君から逃げるなどという唾棄すべき行いに、シオンはようやくながら自分を恥じて拳を握り締めた。
「そちらならば大丈夫です。俺が先程後宮までお送りしました」
「え…」
「貴方と話をする許可も頂いております」
プリムラから許可を貰った。ということは、もはや自分に拒否権は無いに等しい。
遠回しな圧力的行為にシオンは内心苦い気持ちで頷いた。
ムスタファはシオンのすぐ目の前まで歩み寄ると、彼の目を見つめた。
「ジャーミアのことを、愛していらっしゃいますか?」
「な…」
「これから話すことは彼女についてのことです。彼女の烙印を、貴方は見た筈だ」
シオンはジャーミアの肩に痛々しく焼き付いた烙印を思い返して、視線を逸らした。
「あれは…」
「お察しの通り罪人の証です」
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